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街には拳固の雨が降る

「街には拳固の雨が降る。
街には何かを目覚めさせる拳固のような雨が降っている。
見慣れて退屈だった街は刺激的な街になり、
私を引き付けて離さない雨であふれていた」
 
タイトルの「街には拳固の雨が降る」は、学生時代に読んだ短編探偵小説の一編から取りました。
主人公は、アル中のホームレス。舞台はニューヨークの貧民窟バウアリ。仲間と妻から裏切られたことをきっかけに、何もかも失った私立探偵くずれの男がバウワリに流れてきた所から物語は始まります。
バウワリの路上にいる数多くのホームレスの一人だった主人公が前歴を買われて人探しやトラブル解決を頼まれ街を駆け回るうちに、胸のうちにあった絶望感や過去を乗り越え、少しずつ、探偵として蘇っていくという話でした。
 
今回の写真展と写真集の写真は、 2002年春から 2004年の冬にかけて撮影したものです。
これらを撮り始めた 2002年当時は、世の中はフィルムの銀塩カメラとデジタルカメラが入れ替わろうとする時でした。
ただ、ずっと写真を撮り続けた私には、デジタルカメラは、画素数が 400万画素程度で本気で撮るにはもの足りないものでした。また、仕事で使ったデジタル一眼レフカメラを通じてデジタル処理の可能性や便利さを知ったことで、それまで愛用していた中判カメラをはじめとする銀塩カメラを使う気もなれず、結局、仕事以外でほとんど写真を撮らなくなっていました。
 
そんな時、通勤途中、朝日を浴びた街並みが目に入りました。何の気なしに、カバンの中にあったデジタルカメラで歩きながらファインダーを覗かないで撮ってみました。その瞬間、何か開放されたような気がして、夢中になってシャッターを切り、実感しました。「銀塩だとか、デジタルとか関係なく、撮ればいいじゃないか」と。それ以来、街を駆け回り、目に入ったものや光景を片っ端に撮るようになりました。
 
 今回、これらの写真をまとめようと思った時に、浮かんだのが上記の探偵小説でした。事件を解決するために街を這いずり回った酔いどれ探偵。 400万画素のコンパクトデジタルカメラを片手に街を這いずり回る私。同じじゃないかと。
 
「街には拳固の雨が降る。」